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TOPほのちゃんRoomこちら魔女の世界

 

 

魔女の世界

ほのちゃんの創作物語、今回のテーマは「魔女」です。
ふたりの魔女が繰り広げる思いで、村人や動物たちの
心が揺らいでいきます。
さあ〜、どんな展開になっていくのでしょうか?
お楽しみください。

イラスト:安藤 伸江
魔女のイメージは「黒」ということで鉛筆で
チャレンジしてみました。
こちらもお楽しみ下さい。

対 象

実施日

ふたりの魔女が繰り広げる世界へようこそ!

魔女と薬草  前編

細い木々の間から木漏れ日が
射しこむ山の頂上に
ふくろうのクロと一緒に住むトーラは
村で唯一の優れた魔女でした。
ところが、彼女の元に訪れる人は
そう多くはありません。
なぜなら、トーラはいつも
クモの巣のように絡まった
白い髪に象の皮にすら見える汚れた服装、
薬草作りでひどく荒れた肌を
していたからです。
そして今日も、
彼女の古く薄暗い小屋の中では、
大きな漆黒の鍋が天井からつるされた
不思議な植物の下で
ぐつぐつと音を立てているのでした。 
その時、コンコンとノックの音がして
トーラはきしむドアを開けました。
「やあ、トーラ」 
若々しい緑の森を背に、そこにいたのは
ふわふわした茶色の毛を持つクマでした。
「あら、あんたまた来たの。
今度はいったい、何の用よ?」 
クマは部屋の中で煮える大鍋の中身を
不思議がっていましたが、
のんびりと言いました。
「僕の友達が喉の調子が
おかしいって言うんだ。
合う薬をもらえないかなあ?」
「はい、はい。お安い御用さ」 
すると、部屋の中の大鍋が
ボコボコと怪しい音を
立て始めたため、
小屋へと戻って行こうとするトーラを
クマが呼び止めました。
「そうだ。今日はひとつ、
ニュースがあるんだった。
山を下りた村の大通りに、
トーラと同じくらいの年の
魔女が住み始めたんだってよ」
「へえ〜、魔女が……」 
トーラは特に
驚くこともしませんでした。
今まで村に魔女がいたこともありましたが、
大抵はトーラと似たような生活を
しているため、
上手くやっていけるだろう……
と軽く考えたのです。
「それじゃあ、
ぜひ腕前を見せてもらわなくっちゃね。
今度、会いに行ってみることにするわ」 
そう言い残すとトーラは慌てた様子で
小屋へと戻っていきました。
そしてドアを開けた時からは
想像もつかなかったような速さで、
ガタガタと音を立てていた大鍋の蓋を
開けましたが、
彼女は大きくため息をつきました。
「あ〜あ、失敗だ。
まったく、あのクマが
もうちょっと後に来てくれれば
目を離さずにすんだのに…」 
そうブツブツいいながら、
すでにクマの姿はない入口を
にらむばかりのトーラでした。
次の日、
トーラは重い病気にかかった村の人の元に
来ていました。
狭い家の中で、ひとりの老人が苦しそうに
息をしています。
トーラが薬を調合し、
治癒(ちゆ)の魔法を使いながらも、
いっこうに良くなる気配がない
彼の病気をどうしたものかと
頭を悩ませていました。
それでも、
出来るだけのことはしてあげようと
彼女は精一杯魔法を使い、
例えどんなに苦(にが)くても
良質な薬を作っては
置いていく日々でした。
しかし、また少し日を開けて彼…
アレクの元を訪れた時、
トーラは彼の様子を見て
「えぇっ?!」
と声をあげました。
なんと体を起こすことも出来なかった彼が、
ベッドの上に座り本を読んでいたのです。
「一体何があったの?!」 
喜びながらも驚くトーラに、
アレクは笑いながら言いました。
「メドラが来てくれて、
なんだかよくわからないけど
凄い薬と魔法を使ってくれたんだ。
おかげで今はかなり良くなったよ」
「ふーん……まあ、でもよかったわ。
一応、この薬も飲んでおいて」 
そう言って治癒魔法をかけ、
薬を置いたトーラは首をかしげながら
アレクの家をあとにしました。
メドラって……
一体何者なのでしょうか。
それからしばらくの間、
アレクの元を訪れたものの、
もう彼はトーラの薬が
必要ないくらいまでに
元気になっていました。
軽い買い物くらいのことなら
外を歩けるようになった彼の噂は、
メドラの評判とともに
もう村中に広まっていました。
「メドラって凄い人なのねえ」
トーラはそうつぶやいたものの、
なんだか自分が負けてしまったような、
少し悔しい気もちが心のすみに
引っかかっていました。

それから何日かたったある日、
トーラは薬やハーブを使った食べ物を
届ける約束をしていたフクロウや
動物達の元へと向かいました。
ところが、
最初にフクロウの家に訪れると、
彼は言いました。
「うーん、
もうメドラにいい薬を
作ってもらったんだよね。
だから今日は、
君からの薬はいらないかな。
ごめんよ!」
まあしょうがないか……
そうしぶしぶと引き返したトーラは、
次の届け先、
シカの家へと向かいました。
すると、シカは
トーラとの約束をたった今
思い出したような口ぶりで
言いました。
「ああー、
そういえば君とも約束したんだっけ!
でもメドラとも約束してしまったんだ。
近々もらう予定だから……
君からは当分いらないよ」
さすがに腹ただしく思ったトーラは
言い返します。
「でもあたしの方が
先に約束していたじゃない!」
「そうだけど……
まあまたの機会にね。それじゃ!」 
そう言って、シカは去ってゆきます。
怒ったトーラは頬を膨らませ、
荒い足どりで
村に住むリボンをつけたウサギの元へ
向かいます。
そして商店街で
そのウサギを見つけたトーラが
口を開きかけた時、
パッとウサギが
そっぽを向くように横を向きました。
「あっ、メドラさーん!」
「ちょっと!」 
いい加減頭に来たトーラが
何か言おうとした時……
ふと視界に金の波のような明るい金髪が
風にふわりと飛び込んできました。
ウサギが向いた方向へと
振り向いたその先で、
柔らかく膨らんだドレスのような服のすそが
ひるがえります。
そして同じように、
しかし優雅に振り向いた、
泉のような青くどこまでも
透き通った瞳と目が合いました。
それがメドラなのだと
一目でわかりました。 
驚いたことに、
メドラはトーラを見ると
あっと顔を輝かせて駆け寄り、
鳥のさえずりのような声で言いました。
「こんにちは!私はメドラよ。
あなたが森の魔女さんね?
会えて嬉しいわ!」
「あ……あんたが魔女?」 
メドラは魔女というよりは
エルフや妖精のようで、
トーラは目を疑いました。
こんなにも綺麗な魔女がいるなんて、
生まれて始めて知りました。
メドラはトーラの手を取って
天使のような笑顔で笑います。
「ねえ、これからよろしくね!」
「……ええ」 
トーラは思わずうつむいてしまいます。
同じくらいの年の魔女だというのに、
彼女とみずぼらしい自分では
あまりに不釣り合いで
恥ずかしく感じられたのです。
村人達の視線が痛く、
さっと手を離したトーラはメドラと別れ、
動揺する心を隠し何事もなかったように
来た道を歩いてゆきました。
ところが、ふとどこからか村人達の会話が
聞こえてきたのです。
「まさか、あんなに美しく性格もいい、
素敵な魔女がいるとはねえ。
あの薄汚れた魔女とは大違いさ」
「そうよね!もうメドラが居れば、
あの魔女はいなくても
いいんじゃないの?」
それが本当に誰かが
言ったものだったのかはわかりません。
けれども、今のトーラには
そう聞こえたのでした。 
その言葉はトーラの心に突き刺さりました。
(……何よ) 噛んだ唇には血が滲みます。
(メドラと比べて、あたしは役立たず?
だから村を出ていけなんて冗談じゃない) 
せめてもの抵抗で、
「トーラさん、また会いましょうね」
と手をふるメドラには答えず、
トーラはつぶやきました。
「ならば、あたしだって負けていられない」 
呑気に鉢植えをしていたクマが、
そんなトーラの様子を少しだけ
心配そうに見ていました。

祭りの夜 中編

それからの日々……
せめて身なりから始めようと
思ったトーラは金色に染めた髪を
丁寧にくしで整え、
荒れた肌にも作った薬を塗りました。
破れ、汚れた服も捨て、
村一番の服屋に行って
新しい綺麗な服を仕立ててもらいました。
お化粧の仕方も学び、仕草や言葉遣いも
徹底的にメドラを真似て、
上品な笑い方も練習しました。
そしてついでに壊れかけた小屋も
魔法で直し、色鮮やかに
飾り付けたのでした。
メドラが誰かの病気を治したと聞くのに
せかされるように、
新しい治癒の魔法も研究し、
もっとよく効く薬を作ろうと
大鍋をかき混ぜました。
思えば、これほど努力をするのは
必死になって
魔法を学んだ子供のころ以来でした。
そして一か月後……輝かしい金色の髪に、
すっと通った鼻筋、
おしゃれな靴から伸びた
スラリとした足で歩く女性を見て、
人々は目を見開いて振り返りました。
「あれ?あんなに綺麗な人がいたっけ?」
「誰だろう?
なんかメドラに似ているね」
それは、ずっとメドラのようになりたくて、
努力を積み重ねたトーラです。
自分に集まる人々の視線に、
心の中でニヤリと笑ったトーラは
口に手を添え、上品な微笑みと共に
言いました。
「こんにちは。今日はいい天気ね」
「ああっ、そうですね。
えっと……あなたは?」
美しいトーラに話しかけられ、
桃色に頬を染めた村人が
おずおずと聞きます。
「山の上の魔女、トーラよ」
えぇっ、と、
どよめきが広がりました。
それはあっという間に噂となり、
やがて魔法の腕も上がったトーラは
村中の人々の間で
メドラのような魔女として
有名になったのです。

それからの日々は、
トーラにとって夢のような毎日でした。
見なりが整い、
ちょっと優しく接するだけで
周りの人々は自分の元へ楽しそうに訪れ、
人気者になることが出来たのです。
いつかはトーラの注文を断ったシカも、
トーラの元にやってきては言います。
「あの薬、とてもよく効いたよ!
おかげでうちの植物が
すっかり元気になった!」
トーラは口元に手を添え、
恥ずかしそうに微笑んでみせました。
「うふふ、よかったわ。ありがとう」
今度は茶色の犬がやってきました。
「ねえ、今度のお祭り、
もし良かったら
僕と踊ってくれませんか?」
すると、どこからか現れた
ニワトリが言いました。
「ダメー!
トーラさんは私と歌を歌うの!」
「なんだよ〜!」
言い合いを始めた二人を
トーラは優しく引き離しました。
「あらあら、ケンカはダメダメ。
私は歌いながら踊るから大丈夫よ。」
「本当?!やったあ!」
嬉しそうにはしゃぐ姿を見ながら、
トーラは心の中でため息をつきました。
本当は踊りも歌も、
お祭りも好きではありません。
でも、仕方がないのです。
本音は口に出さず、
ただ笑っていれさえすれば
自分をみんなは
好きになってくれるのですから。
「お祭り、楽しみにしているわ」
そう言って、トーラは微笑みます。
そして帰って行く姿を見届けると、
ピシャリとドアを閉めたトーラでした。

いよいよ、トーラにとって
憂鬱なお祭りの日がやってきました。
もちろんメドラもやってくると聞いて、
トーラは精一杯着飾って小屋を
あとにしました。
暗くなりかけた森のどこかで、
心地よくフクロウが鳴いています。
そして山を降りると、
まるで村全体が暗闇の中に
浮かび上がるように、
光を帯びていました。
それよりも、
沼の近くに咲いていた珍しい植物の方へと
心は惹かれたものの、
慌てて前を向いたトーラは
ゆっくりと静けさが流れる
薄暗い森の中から、
騒がしい村へと歩いてゆきました。
けれども、
今日のために買った新しい靴は、
かかとが高く
歩きにくいといったらありません。
新しいスカートのすそに着いたフリルを
踏みそうになりながらも、
今更引き返せるわけもないトーラは
村へと向かいました。
いつもは素朴で小さな村も、
今日は楽隊が奏でる音楽が鳴り響き、
夜空の下に暖かい色のランプが
浮かんでいます。
普段なら目につかないような町の石畳も、
そんなお祭りの空気の中では
なんだか特別なものに思えてきます。
いままでは森の小屋から遠目に
お祭りを眺めているだけだっただけに、
トーラはそんな村の様子に
感心したように辺りを見回すばかりでした。
そこへ、
「あ、トーラさーん!待っていたよ!」
と自分に手を降る村人達を見つけ、
トーラは慌てて笑顔を作り、
いかにも楽しそうな足取りで
人々の元へと向かいます。
そこには、ダンスを踊り歌を歌うと
約束をしてしまった
犬とニワトリの姿もありました。
すぐに、自分の周りには
人だかりが出来ました。
それでも、自分が歓迎されているのは
とても嬉しいのに変わりはないのですが、
トーラはメドラの方を
確かめてしまいます。
やはり彼女の方がもっと沢山の人が
集まっていました。
その時、より一層大きく、
弾むように響く音楽が
聞こえてきました。
それが有名な踊りの曲だと
トーラが気づいた時、
犬が言いました。
「さあ、踊りましょう!」
言われるがままに手を取られたトーラは
慌てて小さく呪文を呟きました。
それは体が勝手にダンスを
踊れるようになる魔法です。
いつの間にか動いていた足が、
軽やかなステップを踏み始めます。
時には飛び跳ね、笑い声をあげ、
トーラのまわりを回りながら、
踊る犬との息はぴったりです。
けれど、
いくら楽しくダンスを踊っていて、
みんなに馴染んでいるように
見えてはいても、
なんだか自分だけが
みんなから浮いているような気が
してしまうのです。
辺りではみんなの笑顔と笑い声が
耳障りなほど鳴り続けます。
(でもあたしは楽しくなんて……
まったくない)
ふとトーラの足が止まりました。
うわべだけで固まっていた笑顔も
どこかへと消えてゆきます。
「トーラさん?」
犬が心配そうに首を傾げました。
ところがその時、遥か遠くで、
軽やかに舞うメドラの姿が見えました。
トーラは引きつけられるように
メドラから目を離せませんでした。
その心の内側から溢れ出る光のような
明るいオーラに包み込まれた彼女は、
自分がどうあがいても
決してかなうものではありませんでした。
ダンスの動きも
魔法を被っただけのトーラとは違い、
その自然な優雅さに
指先から金粉が舞うようです。
彼女と自分では、
やはり心の芯から違うのだと、
実感せざるを得ません。
思わず逃げ出したくなったトーラは
自分をしかりつけました。
(そんなだからいけないんだ。
あたしだってメドラみたいになりたい!)
そして、何事もなかったかのように
犬に合わせて踊り始めました。
ところが、先ほどのように
上手く体が動きません。
それは魔法が解けてきているからなのか、
彼女の心が波のように
荒れているからなのか、
焦れば焦るほど、もう綺麗な笑顔も
浮かべることが出来ませんでした。
やがて、ダンスが終ったとき、
犬がそっと言いました。
「なんか無理やり僕と踊らせてしまって、
ごめんなさい」
はっと気がついたトーラが
何か言おうとすると、
気遣うように犬が笑って手を振りました。
「じゃ、残りのお祭りを楽しんで!」
そう言って駆けてゆく犬の先には、
メドラがいます。
一人残されたトーラは
しばらくそこに立っていました。
そして少したった頃、
素早くきびすを返すと、
自分の小屋へと
足音を踏み鳴らしながら
歩いてゆきました。
蹴とばされたランプが
固い石畳に転がり、砕け散り、
その輝く灯りは消えました。
それでも、トーラは立ち止まりません。
なんだか、自分が
とても馬鹿らしいことを
しているように思えました。
「もうやーめた!」
足をしめつけていた靴は脱ぎ捨て、
塗り重ねた化粧をこすって落とした
トーラは飾りだらけの服が
汚れるのも構わず、
自分の小屋へと歩いてゆきました。
あの人たちのことなんて
全て忘れてやるとばかりに、
町の方などは振り返りも
しませんでした。
やっとたどりついた
村の出口の向こうには、
薄暗い森が柔らかい木々の香りと共に
トーラを出迎えるように
横たわっていました。
フクロウの子守歌のような歌声は、
耳に無理やり飛び込んでくるような
祭りの音楽とは違い、
トーラの心を静めます。
さあ、帰ろう…と
トーラが一歩踏み出した時でした。

メドラの秘密 後編

「トーラさん!」 
よく響く澄んだ声で
自分を呼ぶのが聞こえました。
トーラは何歩か進んだあと、
しぶしぶ足を止めました。
呼んでいるのが誰かは
わかっていました。
「何よ」 
愛想よくふるまうことなど、
どうでも良くなっていたトーラが
答えます。
返ってきた声は息が切れていて、
わざわざ自分を呼びに
走ってきたのだとわかりました。
「大変なの。
具合が悪くなった町の人が
倒れてしまって……
わたしじゃ何もしてあげられないから、
トーラさんを呼びに来たの」 
振り返ったトーラとメドラの目が
同じ高さで合いました。
しかし、
「あんたでも治せないほどなら
あたしでも無理よ」 
トーラが静かに言います。
すると、メドラが首を傾げました。
「何を言っているの?
あなたの方がわたしと違って
魔法が使えるじゃない?」 
そう純粋な口調で問い返され、
トーラは思わず声を荒げました。
「あんたこそ何言ってるのよ。
あたしが使えない治癒魔法を
沢山知っている、
凄い腕の魔女なんじゃない」 
メドラは何も言いません。
それを腹だたしく思ったトーラは
一方的に続けます。
「村の人達はみんな
あんたが一番の魔女だって言ってるわ。
ああ、きっとそうなんでしょうよ。
もうそれでいいわ。
だから、変に気をつかうのはやめて!」 
トーラがいっきに言い終えても、
メドラはまだ困惑したような顔を
しています。
更に何か言ってやろうと
トーラが口を開くと、
突然、メドラが軽快に笑いだしました。
「あははは、違うわよ!」
「何がよ」 
すると、
トーラの睨みつけるような眼差しなど
見えていないかのように、
メドラは優しく言いました。
「わたしは魔法なんて使えないわ。
魔女でもない」 
トーラが眉をひそめます。
「確かにわたしの家族は
魔法使いだけれど、
わたしにそんな力はないわ。
しいて言うなら、
わたしが使える魔法は
人を笑顔にする魔法くらいよ。
それだけ」
そう言って笑ったメドラとは反対に、
「何よ、もう……」
と、 トーラは足元から
力が抜けていくのを感じました。
「じゃあ、
わたしに治せなかった人の病気が
治ったのは?」
「うーん、そうね……
わたしではトーラのように
力になれないとは、わかっていたの。
でも、誰かに希望や楽しみを
与えることくらいなら
わたしに出来ると思って、
励ましたり、
一緒にお話をしたりしたのよ。
それも、魔法と同じくらい
大事なことじゃないかと思って。
あ、でもわたしがしたことは
それだけだから、
病気が治ったのは
トーラが置いていった薬のおかげよ」
「……それは、すごいわね」 
トーラは、素直にそう言っていました。
ふと蘇ったのは
アレクが重い病気に
かかっていたころの記憶。
自分は病気を治す方法を
一生懸命に考えてばかりで、
メドラのように
彼に笑いかけたりなど
していたでしょうか。
あの日、病気が良くなったと
にこやかに語る彼にも
自分は無愛想な返事をしたあと
薬を押し付けて
帰っていっただけでした。
アレクの身になってみれば
そんな自分の様子は
例えどんなに魔法の腕が
優れていると知っていても、
見ていて気分が良くなるものでは
ありません。
そんなトーラに、
くすくすと笑ったメドラは言います。
「すごくなんかないわ。
わたしは魔法が使えるあなたが
羨ましいくらいだもの。
だから、村の人たちが
わたしを魔女だって勘違いした時も、
つい否定できなかった。
それは、本当にごめんなさい。
だから……ね?もう怒らないで?」 
ランプのひとつが
ゆっくりと炎を消して、
二人の間に横たわっていた影が
薄くなりました。
なんだか
言いくるめられてしまったような
気はしたものの、トーラは言いました。
「やっぱり、あんたは魔女よ。
立派な魔女だ」 
ランプの灯りに照らされたメドラが
驚いたような顔をしました。
「そう?ありがとう」 
そう言って笑いだした彼女につられて、
トーラも小さく笑いました。
そうして、夜空の下で
ランプの灯りと闇がまじりあい、
ほの暗くなった広場への道を、
並んだふたつの人影が
歩いてゆきました。
コンコン。
それからしばらくの時が立ち、
降り積もった雪が溶け、
あちこちで花が
咲き始めた頃のことでした。
トーラの小屋に、
ノックの音が響きます。
「はいはーい」 
銀色の髪に戻ったトーラが、
相変わらず草花が
天井からつる下がってはいるものの
掃除はされている部屋を駆けていきます。
ドアを開けると、
そこにいたのは
ふわふわの毛並みをしたクマでした。
「やあ、トーラ。
久しぶり……って、
なんだか随分と雰囲気が変わったね!」
「ふん、悪かったわね」 
もう以前のように
メドラの真似はしていない
トーラが言うと、
クマは言いました。
「いや、そうじゃなくて、
今の方が断然トーラに
似合っているって言っているんだよ。
蜘蛛の巣みたいな髪に汚れた格好や、
ギラギラした派手な恰好よりも、
それが一番自然な感じがするんだ」
「へえ……そう」
「それに、なんかちょっと
優しくなった気もする。
前だったら
こんな朝早くに何の用だって
怒られていたもの」 
確かに、彼女の背中に
すとんと落ちる銀の髪や、
不思議な生物が描かれた服は
トーラにぴったりに思えます。
そして、身なりの整え方や
ちょっとした仕草は
メドラから学んだものでした。
「じゃあ、
少しは頑張った甲斐があったのね」
「ふふ、それより今日は
またまたニュースがあってね」
「何かしら」
「メドラがどこか新しい町に
引っ越すらしいよ」 
驚いたトーラにクマは言いました。
「まあ、もともと同じ町には
あまりいなくて、
旅をするのが好きな人みたいだからね」
長い冬が終わり、
町は緑の草木や花でいろどられています。
あの祭りの夜、体調が悪い村の人が
自分の治癒の魔法で治った時、
メドラはまるで自分のことのように
嬉しそうな笑顔をしていました。
今なら、なぜ彼女が
沢山の人々に愛されていたかが
わかります。
治癒魔法の代わりに
彼女が生まれ持った
「人を笑顔にする魔法」は
他の誰かがちょっと真似たくらいでは
とても使えないもの。
今 町に咲いている春の花は
すぐに枯れてしまうけれど、
メドラは村人達にとって一年中、
例え嵐の中でも咲いているような、
大きくて輝かしい
一輪の花だったのです。
そんな心から優しく美しい彼女でも、
トーラが羨ましいとさえ
思っていたのです。 
ふふ、 とトーラはクマに連れられて
眺めた小さな村を見て笑いました。 
例え、
自分はメドラのようにはなれなくても、
メドラのように
心から誰かのことをおもって
魔法をつかい、
その魔法で誰かの心に喜びを
与えられたらいい。
そう今は思えたのです。
春の甘く生暖かい風に吹かれ、
トーラは小さく呟きました。
「メドラ。
あたしは色々あんたから勉強になったよ。
会えてよかったって、今は思ってる」 
そんな彼女を見ながら、
ニコニコとクマが笑っていました。

 

 

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